Q and A (136)

Q:ヘッドホン再生音の音圧はどのように測定するのでしょうか?
A:ヘッドホンから出てくる音を直接マイクロホンで測るのは適切ではありません。ヘッドホンの出力音圧を測る場合には、実際に使用する状態の音響負荷をヘッドホンに与える必要があります。なぜならば、開いた空間に音のパワーを放散するスピーカなどと異なり、多くのヘッドホンは耳当てと外耳とで形成される閉じた空間(小部屋)に音圧を発生するように設計されているからです。その小部屋の形状によって定まる音響インピーダンスと、鼓膜から奥を見込んだ耳の音響インピーダンスとを合成したものが、ヘッドホンに対する音響負荷になります。
 最も確実なのは、ヘッドホンを実耳に装着して、外耳道入り口あるいは外耳道内に生じた音圧を、プローブマイクロホンや超小型のマイクロホンで測る方法です。しかし、マイクロホンの固定方法に工夫がいる、高い周波数では定在波の影響で測定点によって測定値が変動する、個人差があるなどの問題点があります。
 よく利用されるのは、擬似耳もしくは人工耳(artificial ear)と呼ばれる音響カップラにヘッドホンを装着して、カップラ内に生じた音圧を計測用マイクロホンで測る方法です。人工耳にはいろいろな種類のものがあります。通常の耳載せ形や耳覆い形ヘッドホンの出力音圧を測定する場合には、実耳の音響インピーダンスを模擬したIEC 60318規格の人工耳(旧規格番号に因んでIEC318型とも通称される)が用いられています。挿入形ヘッドホンに対しては、IEC 60711規格の人工耳が用いられています。また、ダミーヘッドに耳介と人工耳を装着したものを用いる場合もあります。この人工耳を用いる方法の最大の問題点は、ヘッドホンと実耳とが密着していないと低域の応答が落ちるために、実耳応答と人工耳応答とは必ずしも一致しないことです。また、側圧と呼ばれる適切な圧力でヘッドホンを人工耳に押し付ける必要があり、保証帯域が10kHzまでであることなどにも注意が必要です。
 最近、小型スピーカを耳元に置くような、ヘッドホンと耳とが密着しない開放型ヘッドホンが増えてきました。また、携帯型音響機器の多様化に伴って、いろいろなヘッドホンが販売されています。こういう新しい型のヘッドホンを人工耳で校正する方法についても様々な提案が行われていますが、まだ決定打はありません。

文 献
1. 平原達也:ヘッドホンの陥穽, 日本音響学会誌, 55, 370-376, (1999)
2. 大平郁夫:オーディオ機器の規格と測定法(3) ― ヘッドホン ―,日本音響学会誌, 45, 556-564, (1989)

(平原達也:ATR人間情報科学研究所)

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