Q and A (183)

Q: 近年挿入形イヤホンの多くにバランスドアーマチュア方式というのが採用されているようですが,ダイナミック形とどのようにちがうのでしょうか。
A: バランスドアーマチュア方式とは電磁形駆動方式の一形態で動電形(通称ダイナミック)とは原理から異なります。
  動電形駆動機構は磁場の方向に直角においた導線に電流を流したときに両方に直角方向に力が生ずるフレミングの左手の法則の応用でその力は磁界の強さ,電流,磁界内の導線の長さの積となります。従って電流の変化に比例した駆動力が生じ,振動板を振動させて音を発生します。
  一方,電磁形は磁性体の空隙に生じる磁界を変化させその吸引力の変化を利用したもので磁界の強さB のときその力はB 2に比例し必然的に第2高調波が発生します。これを小さくするために考案されたのがバランスドアーマチュア形です。図に示すように磁極空隙の中央部に磁性体のアーマチュアをおいて直流吸引力をバランスさせ,同時に吸引力の2乗に比例する第2高調波をキャンセルさせる構造です。 空隙の片側では直流磁界と信号磁界が同方向,反対側では逆方向であり力の方向が逆ですからアーマチュアに働く力の2乗分は消えかつ磁石にフェライト,希土類族等の導磁率の低いものを使用すると空隙寸法が少し変化してもB の値はあまり変化せず駆動力は倍になり感度は 6 dB よくなります。実際に動電形とバランスドアーマチュア形と感度比較すると動電形は 102 dB 〜 106 dB (カプラIEC 60711) に対して 112 dB 〜 116 dBくらいです。そのため従来は補聴器等出力の小さな増幅器で大きな音を要求するものに使用していましたが最近ステレオ音楽聴取用のものが商品となりました。以上メリットばかりのようですがデメリットも当然あります。
  第1は動電形に比較して構造及び寸法精度が厳しいため高価になります。現在市場で販売されているものは3倍以上です。第2に振動系に鉄系材料を使用するので質量が大となり高域の再生性能特に 7 kHz 以上が感度が低くなります。第3に直流吸引力がバランスするのは中点のピンポイントで少しでも中点をずれれば其の方に引っ張られアーマチュアが磁極に吸い付きます。それを防ぐため振動系のスチフネスを大きくし磁気回路の吸引力に対抗しますと耳との間に空隙があり漏洩がある場合は低音が出にくくなります。
  最近カナル形として外耳道内に差し込むような使用法が流行するので密閉度が高くなりこの駆動方法でも低音が十分に再生されるようになったのでこの方式が採用されたのではないでしょうか。


図-1 バランスドアーマチュア形

大平 郁夫 (アシダ音響(株)顧問)

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