Q and A (003)

Q:CD のサンプリング周波数の 44.1 kHz は,DAT の48 kHz に比べて中途半端な値という印象を持ちますが,これらはどのような経緯で決定されたのですか?世界的指揮者カラヤンの第9を全曲 CD に入れるために決定されたという噂は本当ですか。また,CD として提供されている音楽音源はすべて44.1 kHz サンプリングで録音されているのですか。あるいは高サンプリングで録音したものを変換しているのでしょうか?
A:一見すると,確かに CD のサンプリング周波数の 44.1 kHz は,DAT の 48 kHz に比べて中途半端な値のような気がしますね。これにはディジタルオーディオの開発の経緯が関係しています。開発当初,PCM 化された信号は 1 MHz 以上の広帯域ですので,とてもアナログテープレコーダの方式で記録することは無理でした,そこで,すでに実用化されている VTR 方式(回転ヘッド方式)を利用することが考え出されました。商品化されたのは,VTR を記憶媒体とする PCM プロセッサで,VTR の機構には一切手をつけず,映像信号としてディジタルオーディオの信号を記憶する方式で,水平垂直同期信号などもそのまま使われていました。このときの標本化周波数が NTSC 方式 VTR を利用する場合,44.056 kHz,PAL SECAM (CCIR)方式 VTR を利用する場合 44.1 kHz でした。 そこで,CD のサンプリング周波数もこれと合わせておくと,ディジタル化したソフトの蓄積,システマティックな拡張に都合がよいというのが主な理由です。では,どうして PCM プロセッサのサンプリング周波数が 44.1 kHz かということになりますが,これは,水平走査期間内の利用可能な走査線の数,ビット伝送レート(家庭用 VTR の再生限度),符号誤り訂正のためのマージン,垂直同期周波数,サンプリング周波数などの兼ね合いから,現実に取り得る値として,あまり自由度のないまま,必然的に決まりました(文献1)に詳しい説明があります。また,48 kHz というサンプリング周波数は,もともと放送局間の PCM 伝送(FM 放送回線,衛星放送Aモードなども同じ)で使われていた,32 kHz に対して整数比(3:2)であることから,IEC や CCIR で正式にプロ用スタジオ標準規格として採用されました。DAT もこれを採用していますが,DAT 懇談会の標準化作業を経て,IEC 1119 DAT カセットシステムという規格で制定されています。 周波数間の整数比が重視されるのは,アナログを経由しないで,ディジタルのままサンプリング周波数を変換する装置が安価にできるためです。現在,規格は,CD がIEC 60908:1987,DAT が7部構成ですが,IEC 61119 シリーズで規定されています。また,指揮者カラヤンと演奏時間の話は有名ですが,例えば,文献2)に開発当時の実話が記載されていますので参考にして下さい。巨匠カラヤンのベートーベンの交響曲第9番二短調,いわゆる第9の全曲が入るように演奏時間を決めたらよいというアドバイスがあったことは事実で大いに貢献したようです。また,LP レコードの演奏時間と価格,演奏家への著作料など,商品としてのマーケットリサーチがレコード会社で行われ演奏時間は60分程度がよいということなどもあり,結局,演奏時間74分42秒に決定したということです。 また,これまでの記述でお分かりのように,CD の規格では,サンプリング周波数 44.1 kHz,2チャンネル同時標本化で,16ビット直線量子化と定められているので,最終的には楽音はこのフォーマットで記録するしかありませんが,もとになるソース信号をサンプリング周波数 44 kHz にするかあるいは高サンプリングにするかは制作側に委ねられていると言えましょう。

(文献1)中島平太郎, 小川博司, コンパクトディスク (オーム社,東京, 1996)
(文献2)森芳久, カラヤンとデジタル (ワック出版社, 東京,1997)

浜田 晴夫(東京電機大)

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